カガリヌイ
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https://www.pakutaso.com/20170235051post-10409.html
少女は真っ赤になった顔を背けながら「そ、そうなの……あ、私たち、挨拶がまだ……その、改めて、私はハニル、です……」と縮こまると、険しい顔をしたまま少年は「俺はサダルフォン、飯にありつけなくって悪かったな」とそっけなく言った。
ハニル、と名乗った少女はサダルフォンと名乗った少年の顔をじっと見ると、静かに席を立ち「せめて、なにか貰えないかだけでも聞いてみる……」と告げて宿屋へと歩いていった。
数時間の後、彼女が両手いっぱいに持ってきたのは大桶に入った煮えくり返っているお湯と、布切れなどだった。
ハニルは自身が護身術用に持っていたのであろう小型ナイフで獣の革を削ぎ落とすと小さめの桶に移したお湯を残し、桶の中へ放り込んだ。
よく慣れた手さばきだった。
そうやってあの森の中をさまよいながら生きていたのだろうとサダルフォンは、見えないながらに関心をしていた。
すこしすると、ハニルはサダルフォンに「熱いから、気をつけて?」と言って何かを手渡してきた。
音やおぼろげな情報からそれが調理された肉であることは間違いがなさそうなのだがサダルフォンは「あっちい!」と叫ぶとすぐにその肉を口へと放り込んだ。
あまり味気のないただの肉だった。通常獣の肉は食用には適さない。
大概が渋いかえぐいかしてそれを好むような者ではないと食べれたものではなかったからである。
特別美味しいとは言えないが、まずいとも思わないところからするとハニルの料理の腕は悪くないようだった。
ハニルは、そんなサダルフォンの姿を目をまん丸くしながら眺め「そんなにがっついたら……!」と言ってサダルフォンを心配したが、当人のケロッとしている様子を見て感心したように「男の人の食欲って、すごいのね……」と言ってかすかに笑った。
それから少しすると、ハニルはサダルフォンがどうやら自分が着ている服の色さえ、あまり明るくない故かわからないのだと察して「お湯拭きするわ、驚かないで、私に身を任せてちょうだい」と言ってサダルフォンをお湯に浸した布で拭き始めた。
当然、サダルフォンは多少の抵抗をしたが、ハニルはずっと「だめ」の一点張りであり、サダルフォンも乱暴に扱われるわけでもなかったので、黙って目を閉じて動かぬように徹した。
ハニルは、そっとサダルフォンの腕を持って、拭きながら「やっぱり、さっきまであんまり気づかなかったけれど、結構泥だらけ……暁の丘へ向かうために無理をしたの?」と問いかけた。
サダルフォンはそれに対して「さあな、泥がつくようなとこなんざ行ったかどうだか……」と言いながら顔を拭かれてもおとなしくしていた。
ハニルがそっとサダルフォンの肩に触れ「流石に一部分は無理だけれど、上半身と足くらいは拭くわ、この羽織、とるからね?」と言ってするりと服をとった。
そして小さく息を飲む音がサダルフォンの後ろから聞こえていた。
サダルフォンの肩や首の付根は傷跡が多かったのだ。
それを察したサダルフォンは「昔の傷だ、恐ろしいと思うなら、見るんじゃねぇ」と告げて体を揺すると、ハニルはすぐに首元に温かい布を置いた。
そうして「傷の多さにも驚いたわ、だけど、私が驚いたのはそこだけじゃない……もともとあなたのこと、筋肉質だとは思っていたけれど、こんなに筋肉があるって思わなかったの。少なくとも、私の記憶の中にいる男性は、皆こんな体型をしてなかった……すごく、がんばったのね」そう言いながら背中を丁寧に、力強く拭いていた。
一通りそれらが終わった時、ハニルは少しだけ恥ずかしそうにしながら「見えてないみたいだから平気だと思うけど、その、私もあなたの後ろで体を拭くから、振り返らないでね……」と言ってもぞもぞと準備を始めた。
サダルフォンは、別段動かないまま「サダルフォン」と強く主張した。
ハニルは「え?」と言ってサダルフォンをふり返ったが、サダルフォンは前を見据えたまま「あなた、じゃねぇ。俺の名前はサダルフォンだ」とすこし早口に告げた。
ハニルはすこし微笑んで「ええ、そうね、サダルフォン。同い年くらい?たぶん、私達、うまくやっていける……よね」と告げてサダルフォンにかけた半分くらいの時間で自分の身なりを整えたようだった。
借りてきた大きめのシーツを外の椅子に横たえた身の上に 敷いて、その日は終わりを告げた。
翌朝ハニルの「サダルフォン……!」という小さな悲鳴に似た声でサダルフォンは目覚めた。
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