創作置き場

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カガリヌイ

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家 アーキテクチャ 古い · Pixabayの無料写真

  

 サダルフォンは、「あー……」と言って頭を掻きながら少ないだけでいるのだと言うことをハニルに話し、伝えた。あたりもその頃には元のざわつきを取り戻していた。

 

話している時にサダルフォンは上着を取ると、ハニルに背中を向け、肩甲骨のあたりの傷を見せながら「これが最初翼の生えた時のあとだ。最初生えたときはいてぇんだ」と笑って答えた。

ハニルは明るみに出たサダルフォンの体中の細かな傷の多さに改めて息を呑むと、肩甲骨の傷に手をおいた。

しかし、そこだけ柔らかいゴムのような触り心地で不思議がって押しているとサダルフォンは、またむずがって「やめろ……!」と言い出したので手を引っ込めた。

そしてあたかも、その代わりとでも言うように「ここだけ肌の質感が違うのね……」と言ってサダルフォンの顔を見つめた。

 

 サダルフォンは少し頬のあたりを人差し指で掻きながら「そりゃそこから翼の骨格が出てきて皮膚を引き伸ばすようにしてできるからなぁ」とハニルから少し視線をずらしながら答えた。

 

ハニルは「それで、上着はそんなに軽装なの?」と聞くと、サダルフォンはそんなところだな、と言って頷いた。

 

 二人の会話が終わる頃には噂は完全に回りきったらしく、サダルフォンは竜族の英雄として持ち上げられていた。

 

 この施設内でどこかへ行くたびにハニルの少々目立つ容姿で「白いワンピースの美人のねーちゃんってことは……あんたが噂の竜族のにーちゃんか!」といった感じである。

 

ハニルはその度困ったように笑ったが、サダルフォンは、さして気にしていないようで、声をかけられるたび満面の笑みでおう!っと片手をあげてみせた。

その人懐っこさが人気を買ったのか、二人が、ここを出るまでにはすっかりあちこちから引き止められる対象となっていた。

 

サダルフォンは困ったように「俺暁の丘へ急いでるんだ、わりぃな……」と言うと引き止めていた手はやみ、その代わりに、と何か一つあれを持っていけ、これを持って行け、あれをやる、これをやると荷物が増えた。

 

サダルフォンは「あぁ〜もー!きりがねぇ!」と叫ぶと小脇に自分となんら変わらぬ背丈のハニルを抱えて上空へと飛び上がった。その際、当然ハニルは悲鳴を上げていた。

 

サダルフォンは少し上空をさ迷うと「で、暁の丘はどっちだって?」とぶら下げられて若干青い顔をしているハニルに問うた。

ハニルは、さっきいた場所があそこだから……とブツブツ何かを言ってから「斜め右の山々の方……!」と返した。

 

サダルフォンは、ハニルを抱えたままで「よし、あっちだな!」と大きく羽ばたくと凄いスピードで山へと向った。日が落ちてくる頃には山々の中腹くらいに辿り着いたが、丘らしきなだらかな場所は見当たらない。

 

仕方なく地上へ降りると、さすがにほぼほぼ5時間近く飛び回っていたサダルフォンは、疲れ切った様子で、ハニルは、いつ落とされかねない恐怖から足取りは覚束なくなっていた。

 

サダルフォンは「まだつかねーのかー!!」と雄叫びを上げて土の上に転がった。ハニルは「こ、怖かった……」と言ってヨタヨタとサダルフォンの近くに座り込み、お昼頃もらってきたものを取り分け始めた。

そして買ってきた地図を眺めると「このあたりに何か目印みたいなものがあればいいのだけど……」と言って方位磁針と並べて置いた。

 

それからホッと一息ついて「良かった……方向自体は間違っていないみたい……」と言ったのを聞いたサダルフォンは、寝そべっていた身を起こして「なんだよ、この辺のこと分かってるんじゃねえの?」と少し口を尖らせた。ハニルは「私、方向音痴だから……地形をおおよそでしか把握できていないの」と苦笑した。

あんなふうに上空から行くことも無いだろうハニルには、朝方、「道案内」と言う言葉は大きな不安の種だったのである。

サダルフォンはさして興味の無いように「ふーん」と言ってから食べ物にかじりついた。

ハニルは、少し苦笑してから「あ、運んでもらったんだよね?その……一応ありがとう、重かったでしょう?」と言ってサダルフォンの腕に少しだけ触れた。

 

サダルフォンは、チラッとハニルを見てから何でもないというふうに肩をすくめてみせた。

ハニルは、驚いた顔をしてから手を口に添えてクスリと笑った。

 

 しばらくすると、サダルフォンは「そういやお前、誰にもなんも言わないで連れ出しちまったけど、どっかに連絡しなくて大丈夫なのか?」とハニルの方向を見ながら言った。

 

目が合わないところから察するに、もうハニルが朧げにしか認識できないのだろう。ハニルは、頷いてから「大丈夫、心配する人なんて、いないから……」と俯いた。

サダルフォンは「そうか?」と肯定とも否定ともとれるような曖昧な返事をして寝る準備へと入った。

 その間、ハニルは、何かに祈るように両手を掴んで「御母様……」と呟くとキツく目を閉じていた。
 サダルフォンは、その言葉を聞かなかったふりをして木の上で太めの枝によりかかりながら目を閉じた。

 

BGM by【無料フリーBGM】Pastorale / 楽しいケルト曲 - YouTube

次回から自動音楽再生をとりやめます。動画やそのほかの音源は冒頭部分にのせるようにしますので、よろしければお付き合いください。