カガリヌイ
ようこそおいでくださいました!
こちらは海貝あかりによる創作物(主に小説)置き場になります。
現在「カガリヌイ」というものを公開しており、一話はこちらになります。
初めましての方は、こちらをご覧いただき、ご了承いただいたうえで続きをお楽しみください。
前回の記事はこちらです↓
翌朝、小鳥の鳴き声でサダルフォンが起きると、泣いていたのか、頬に若干の筋が残ったハニルの寝顔を見た。
険しい顔をしたまま、その涙の跡も見なかったふりをしてサダルフォンはストレッチを始めるとその背後でハニルがどうやら起きたようだった。
ハニルは「ん、あれ……やだ、えっと、サダルフォン、おはよう」とその背中に声をかけると、サダルフォンは何事もなかったかのような屈託のない笑顔で「おう!今日は暁の丘までいけるよな!」と振り向いた。
その笑顔を見たハニルは心なしかホッとしているようだった。
それからすぐに地図を広げて「たぶん、暁の丘って、丘とは名ばかりの渓谷のような場所なんだと思うの……地形を見る限り、なだらかな丘なんてないもの。そうだとしたら、もうすぐそこのはず」と言ってむんっと力こぶを作るかのような素振りを見せた。
それからサダルフォンを見上げると「そういえば、あなたは暁の丘に何をしに行くの?あそこに特に何かがあるって聞いたこと無いけれど……」と言った。
サダルフォンは「日中だけの応援要請だ、俺の属してる所の仲間が何かに邪魔をされてるらしい。そんな急いでるわけじゃねぇんだけど、万が一それが巨大な獣とかだったらって考えてな……」と言って黙った。
ハニルは「それで、まさか……急いで飛んだら、わからなくなったの……?」と言うとサダルフォンは怒ったように「うるせぇ!悪いか!そのとおりだよ!」と言うと、ハニルは微笑んで「あなたは、とても優しいのね。サダルフォン」と言ってから険しい顔つきになり「それなら、急がなくちゃ、ごめんなさい、私が足を引っ張っていたのよね」とまっすぐに前を見ると歩き出そうとした。
サダルフォンはそんなハニルの腕をつかむと今度は片手にハニルが座るような、もう少し丁寧に担ぎ上げかたをして「そっちの方角なんだな?」と言って飛び立った。案の定、道幅の広い大きな渓谷はすぐに見つかった。
だが、そこには助けを求めているものの姿はなく、単純にそこの部族と思われる人物たちと仲よさげに話し合っている何人かがいるのみだった。
サダルフォンは万が一を考え、茂みにハニルを下ろすと、人物たちに近寄って「あんだよ!戦闘要員の応援要請とかいうからすっ飛んできてみりゃなんにもねぇじゃねぇか!」と声を張り上げた。
すると、リーダーらしき風格の人物が「お前は……サダルフォン!サダルフォンじゃねぇか!随分と久しぶりだな!いやぁ、悪かった。実はここに住んでいた部族が俺たちが襲いに来たんだと思ったらしくてな、攻撃されてたんだがようやく昨日和解することができたんだよ、わるかったな!」と言って笑いながらサダルフォンの背中をベシベシと叩き始めた。
サダルフォンは半ば呆れ、笑いながら「いて、ちょっ、痛えよ、ワヒシュタ!」と言ってワヒシュタと呼んだ男性の手を避けた。
それから「ま、何もなくてよかったわ。そんじゃ、俺は一足先に帰ってる!気をつけて帰ってこいよ!」と言ってワヒシュタに背を向けた。彼は「なんだぁ、せっかく来たのにもう帰っちまうのか?」と冗談めかしてから背中を向けたまま手を振るサダルフォンに向かって「お前は超がつくほど方向音痴なんだから、お前こそ気ぃつけて帰れよ!」と叫んだ。
サダルフォンは笑いながら「うっせ!」と返してひとっ飛びするとハニルのところへやってきた。
ハニルは少し困ったように笑うと「何もなくてよかった、ね?」と言って目を泳がせた。
サダルフォンは黙ってハニルを見ると、しばらく黙っていたが「お前、帰る場所は?」とだけ聞いた。
*おまけ
サダルフォンとハニルが互いに出会うまでの大まかな道のり。
赤がサダルフォンの来た経路。
白がハニルがサダルフォンと出会うまで辿った経路。
※常闇の森は一国が収まってもおかしくないほど大きいので暁の丘あたりと森を抜けた反対側は実は隣国である。