カガリヌイ
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こちらは海貝あかりによる創作物(主に小説)置き場になります。
現在「カガリヌイ」というものを公開しており、一話はこちらになります。
初めましての方は、こちらをご覧いただき、ご了承いただいたうえで続きをお楽しみください。
前回の記事はこちらです↓
ハニルは、驚いたように顔をあげると、辛いとでも言いたげに顔を歪めて首を横へ振った。
それから「ない、どこにも……」と言って自分のスカートをぎゅっと握った。
サダルフォンは「お前は技持ちだろ?何処かに属してないのか?」と問いかけると、これまたハニルは首を横に振った。
そして最初の頃であったばかりの笑顔を見せると「ごめんね、ここまで連れてきてくれてありがとう、私のお役はもう、ごめんだね……」と言った。
その様子を見たサダルフォンは冷酷にもこちらの顔を直視しようとしないハニルに向かって「そうだな」と言うと、ハニルは「い……今まで、ありがとう……楽しかった。本当に、あんなにも短い時間なのに……そうだ、これ、地図も、方位磁針も、もう、私には必要ないし、持っていって、ね?」と言って震える手で自分が所持していたものをサダルフォンへ手渡そうとした。
だが、サダルフォンは、それらを受け取らない。
ただ一言「どこにも行く宛がないなら、俺達の所へ来るか?」とだけ、告げるとハニルは泣きそうだった顔を上げて「い、いの……?」と逆に問うてきた。
「嫌なら、いいぜ」とそっけなく返すサダルフォンに、ハニルは自分の胸に拳を置くと「私は……行きたい、叶うなら、あなたと一緒に行きたい……!」と精一杯に、今度はサダルフォンの顔を直視して言い切った。
サダルフォンは大きく頷くと、人懐っこい満面の笑みを見せて「おっしゃ、じゃあ来い!」と言って手をハニルへ伸ばした。
ハニルは「うんっ!」と頷くと伸ばされたサダルフォンの手をしっかりと掴み返した。
そこから首都までサダルフォンの翼で下り、駅から乗り物に乗って更に都心へと登っていく。
車掌は皆、サダルフォンが少し顔を背けるそぶりを見せただけで改札を通し、お金を払わずとも電車へ載せてくれる。
ハニルが無知なだけでサダルフォンは、かなり大きな仲介所に属している有名な人物のようだ。
戸惑ってサダルフォンの背中に隠れ気味について行っても、誰も怪訝な顔ひとつしなかった。
ハニルは窓の外を眺めながら「わぁ……私、こうして都市部へ向かうことなんてはじめて……」と言ってサダルフォンを見ると、サダルフォンは席についたきり眠ってしまったようだった。
ハニルはそんなサダルフォンを見て「もう……」と呆れると「ありがとうね」と言って外の景色を横目に眺めながら視界にサダルフォンを収めて自分も目を閉じた。
暖かな日差しが、車内を照らし出していた。